前回は、民事信託(家族信託)を活用する上で、信託財産にできるもの・できないものについてご紹介しました。
今回からは、その続きとして民事信託(家族信託)の具体的な活用例についてご紹介します。
民事信託(家族信託)活用例~認知症①~
夫Xと妻Yは夫婦2人暮らしです。妻Yは数年前に認知症を発症し、夫Xが妻Yの日常生活をサポートしています。
夫婦には一人息子の長男Aがいますが、別々に暮らしています。
夫Xは、もし自分が妻Yよりも先に亡くなったら、自身の預貯金等を妻Yの生活費や医療費にしてほしいと考えています。
また、もし妻Yの施設入居資金が足りなかったら、自宅の売却資金を充ててほしいと考えていますが、自分亡き後に実現できるかどうか心配しています。
問題点①遺産分割協議ができない
もし夫Xが先に亡くなった場合、相続人である妻Yと長男Aが、遺産分割協議(財産分割の話し合い)を行い、その結果をまとめた遺産分割協議書をもとに相続手続きを行います。
しかし、妻Yは認知症を発症しているため、その遺産分割協議に直接参加することができません。
遺産分割協議が出来ないと、相続手続きも滞り、夫Xの預貯金等の金融資産の口座は塩漬けになり、自宅などの不動産も夫Xの名義のままなので売却など契約手続きをすることもできません。
(※成年後見人を裁判所に申し立て、妻Yに代わって弁護士など士業の後見人が協議に参加することは可能です。)
問題点②妻Yの資産管理
夫Xの死後、相続財産を妻Yの今後の生活費や医療費に充てるために妻Yが相続したとしても、妻Y名義の預貯金等は認知症を理由に金融機関から引き出すことが困難です。
一部の金融機関では、困っている家族のために一定額までの引き出しなら認めてくれるケースもありますが、施設入居などのまとまった資金の引き出しとなると認められない可能性もあります。
また、裁判所に申立てを行えば、妻Yに代わって、成年後見人(士業などの専門家)が生活費や医療費を引き出せるようになりますが、財産は裁判所の判断に基づく厳格な管理になる上、毎月成年後見人である専門家への費用の支払いが発生することにもなり必ずしもメリットだけではない点も注意が必要です。
他にも、自宅が妻Yの名義の場合、自宅で暮らすのが困難になって、施設へ入居するために自宅を売却したくても、認知症である妻Y自身でその契約手続きをすることは難しく、施設費用を捻出するのもまた大変です。
解決!民事信託(家族信託)の活用
夫Xが先に亡くなった場合のさまざまな問題に備え、民事信託(家族信託)を活用した対策をご紹介します。
民事信託(家族信託)の内容は、夫Xを「委託者 兼 受益者」、長男Aを「受託者」、妻Yを「第二受益者」として組成します。夫Xの預貯金と自宅不動産を信託財産とし、受託者の長男Aが財産の管理を行います。
財産の名義が受託者である長男Aに代わりますが、長男Aは契約書に則って夫Xのために財産管理を行うため、受益者の夫Xは組成後も変わらず自宅に住むことができ、生活費などを信託財産から受取ることもできます。
もし夫Xの相続が発生したら、受益者が夫Xから妻Yに代わるように、「妻Yを第二受益者」とします。
妻Yは、生前の夫と同様に、受託者である長男Aの財産管理のもと、必要に応じて、生活費の受け取りや、自宅売却が可能になります。
2つの問題点を解決
上記で挙げた問題点①、②がどのように解決できるか見てみましょう!
問題点①遺産分割協議ができない
【解決】民事信託(家族信託)の活用で遺産分割協議が不要に!
遺産分割協議については、認知症を発症していると協議に対応することが難しいとお伝えしましたが、民事信託(家族信託)により信託された財産は遺産分割協議の対象ではないため、その部分で夫Xの死亡後の遺産分割協議が不要になります。
よって、信託した財産については、協議が出来ずに相続手続きが止まってしまったり、妻Yの成年後見人を裁判所に申し立てをする必要もなくなります。
問題点②妻Yの財産管理
【解決】民事信託(家族信託)の活用によって長男Aが財産管理することが可能に!
夫Xの死後、妻Yが財産を受取ったとしても、認知症を理由に、財産の管理や処分を行なうことが難しいと説明しましたが、民事信託(家族信託)を活用すれば、信託した財産は、金融機関の信託口口座という口座に預けられ、妻Yに代わり、受託者の長男Aが管理を行うことになります。
つまり、信託財産は、認知症を理由に凍結されることなく、預貯金等は妻Yの生活費や入院費などに有効に使うことができ、また、自宅の売却も長男Aによってできるようになり、施設入居などの必要なタイミングで自宅の売却資金を用意することが出来る様になります。
まとめ
認知症を発症してしまうと契約行為自体がとても難しくなるため、相続対策を行うことも難しくなります。
最適な対策ができるように、とにかく早めに対策を検討するようにしましょう!
また、民事信託(家族信託)を検討されている方は、ご家族に合った確実な内容で活用出来るように、詳しい専門家に相談頂くことをおすすめします!
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